“駒ヶ岳”

日   時 平成17年9月28日(水)〜30日(金)
メンバー 武見(単独)

9/28)
村営芦安駐車場7:10→北沢峠10:30→小仙丈ヶ岳→北沢長衛小屋テント場
 山岳写真を撮る者にとって、天気は非常に重要である。光線状態を計算し、光を求めて移動する。そのため、『山の紅葉』と『山の晴天』、この結構不確実な2つの要素が重なる日は写真をやる者にとって著しく貴重な一日となる。山の紅葉の時期(9月末〜10月上旬)に“確実なる晴天"が3日しか確保できなそうであった。直前まで天気を睨み検討した結果この貴重な3日を以前より行きたかった甲斐駒ヶ岳と木曽駒ヶ岳(宝剣岳と千畳敷カール)〜空木岳にあてることに当日決定する。
 翌日の晴天(だろう)日を日の出時から最大限活用するため、前日に北沢峠に入る。北沢峠到着時には全天雲に覆われていたが、日没まであと半日残っている。夕暮れ時には陸風に乗って雲がとれ、夕日に染まる甲斐駒・北岳が撮れることを期待し小仙丈ヶ岳まで登る。雲の合間から青空が時折覗くが、層積雲(大きな塊をなしロール状・層状をした下層雲)が発達する一方である。稜線上で3時間ほど粘るが結局雲はとれず、暗くなった道を戻る。翌日の天気に期待する。

9月29)
北沢長衛小屋1:00→仙水峠3:30→駒津峰4:30→甲斐駒ヶ岳頂上5:30→下山
 夕方18:30に寝て夜20:30に起きる。その後眠れずゴロゴロ転がるが結局寝付けず。夜23:00に朝食?を取り、夜明け前に甲斐駒ヶ岳頂上に立つべく午前1:00に歩き始める。未だ歩いたことのない未知の区間を夜間に頂上まで詰める計画であるため下調べは十分行ってきたが、一抹の不安を覚える。おまけに歩き始めからシトシト雨が降り始め、その後断続的に降り続く。秋山の写真には紅葉と晴天が必須条件。紅葉のタイミング・天候・光線状態すべてを考慮し、万全を期しやって来た結果が雨にガスで周囲も見えず。「また今回も徒労に終わるのか・・・。」と思うと、即テントをたたんで家に帰りたくなる思いに駆られるが、「山の天気は変わりやすいものさ、朝には晴れるさ」と自分自身に言い聞かせ、カメのような鈍重な歩を進める。
 仙水小屋をすぎると、樹林帯からいきなりサイコロステーキ状の露岩帯に飛び出る。暗闇と深い霧が立ち込め視界がまったく効かない状況で開けた地に出たため、歩く場所が定まらず、眼前に現れるケルンと方角を頼りに歩く。新たに調達した高照度のヘッドライトは空しく眼前の霧を白濁させるだけであり、ケルンは何らの方向性を示さず。向かう方角は誤ってはいないが、足場は非常にガレておりルートを外しているのは明らかだった。
 散々彷徨ったあげくにようやく仙水峠に3時30分に到着する。ここまで来て、上空の一部に澄んだ星空が雲の間から覗かせる。「今日は晴れるっっっ!」と確信し俄然猛然やる気になる。しかし霧の中を散々彷徨し時間をロスしたため、夜明けまで2時間しか残っていない(頂上までのコースタイムは3時間)。「ここまで来て朝焼けの一瞬を逃してなるものかっ!」と駒津峰までの急登をガラガラ音を立てて半ば走るように登る。直前2週間のトレーニングが乳酸を過度に発生させずに運動を持続させてくれる。
 駒津峰を過ぎしばらく行くと、頂上直登コースと巻き道コースの分岐に到達する。下調べの時点でガイドブックには危険性について特別に言及されていなかったため、「直登した方が早いだろう」との安直な思考から真っ暗闇の中、迷わず直登コースを猛進する。花崗岩の大岩を乗り越えていくが、そのうち高度感が徐々に増してくる。考えれば、今花崗岩のつるつるピラミッドの縁を登っているのである。左右を見ても落ちたら止めどもなく転がっていきそうな斜面が暗闇の中浮かび上がる。通常このような岩綾ルートでは、○×印が十分に印されているものだが上部にいくほど印がない。しかも、どこでも登れそうであるため、ある程度ルートを自分で探して登る必要がある(暗くて踏み後が分からず)。ルート自体はさして難しいものではなかったが、久々に高度感のある場所に来たため非常に恐ろしかった。日が昇る直前5:30に甲斐駒ヶ岳山頂に到達する。甲斐駒ヶ岳からの眺望は、富士山、鳳凰三山、北岳と続く南アルプス主綾、仙丈ヶ岳、そして手前の魔利支天のバランスが絶妙の位置関係で展開し、想像以上に素晴らしい展望であった。
 予想以上に頂上付近で時間を使ってしまい駒津峰まで引き返してくると、予定より1時間遅い10:30。予定では甲斐駒ヶ岳を駆け下り、昨日登った反対側の小仙丈ヶ岳まで行き、紅葉の小仙丈ヶ岳カールを撮った後、引き返して北沢峠最終の14:30のバスに乗るはずだったが、どうやっても無理な時間になっていた。あまりにも融通性と連絡性の悪い南アルプス市営バスはどうにかならないか?と思いながら、半端になった時間を持てあますように下山する。翌日南アルプスに留まって撮り損ねた仙丈ヶ岳にするかとも考えたが、木曽駒の赤いナナカマドの誘惑が勝り、芦安から100km移動する。

9/30)
菅の台7:00→千畳敷駅→中岳→宝剣岳→極楽平→千畳敷駅17:00→帰宅
 始発バス出発1時間前にバス停に到着する。平日にもかかわらずもう既に列ができていた(紅葉の時期には少なくとも1時間前に着いておくことが肝要)。千畳敷駅を降り千畳敷カールに出ると愕然、千畳敷カールのすべてのナナカマドはただただ腐って腐りきっていた。原因は不明だが全滅だった。そして到着から10分足らずで高層雲が青空だった中央アルプス上空の空を白く覆いつくす。“完璧なる紅葉の千畳敷カールと宝剣岳と青空"の絵を求めてやってきた今、何らの写欲も起こらない、というよりどうにも撮りようがない。被写体あっての写真である。腐って黒ずんだナナカマドを赤く、白い曇天を青く撮ることは不可能である。紅葉もなければ青空もない、一方昨日までいた遙か向こうにそびえる南アルプスの山々と富士山は雲上にぽっかり浮かび上がり快晴そのものである。バス・ロープウェイ代(往復)3,800円とここまでのガス代、昨日南アルプス(仙丈ヶ岳)に留まったならば得られたはずの効用(仙丈ヶ岳の紅葉の写真)等の機会費用を計算するとため息しか出ない。何もすることが見あたらない。気がつくとベンチに座り込んでいた。他の観光客からもため息が漏れていた。
 地元の写真愛好家の人と交流した後、せっかく来たので宝剣岳を一周するべく歩き始める。千畳敷カールを登るにつれ、上空の高層雲がとれ、晴天が戻る。中岳までピストンした後宝剣岳への登りにさしかかる。宝剣岳直下は上松町側(千畳敷カールの反対側)に鋭く落ち込み気が抜けない。大勢いた登山パーティの大半は宝剣岳素通りか宝剣岳頂上まで行った後引き返してきており、頂上から極楽平に抜けるパーティはほんのごく少数だった。宝剣岳頂上から極楽平まで向かうが、極楽平まではホントに“目と鼻の先”だがこの間、意外や意外、「結構危ないんじゃない?」といった感じ。足を滑らしたら上松町側(千畳敷カールの反対側)の谷に真っ逆さま、後ろに落ちたら観光客で賑わう千畳敷カールまで大墜落といった箇所もある。岩質は安定しているが、対向者とのすれ違いはほぼ不可能。テント・水等の野営登山セットとカメラセット、すべての装備を背負っての岩綾帯の通過は初めてであった。10キロの日帰り写真装備と20キロの装備とは勝手が違う。やたら重心が上の方にありグラグラするのを踏ん張り、バランスを保つだけの脚力が必要となる。極楽平に達するまで高度感に対する恐怖はなくならなかったが、安全確実に岩場での動きを確認しながら通過する。短い区間だが自分の力量にあった非常に楽しい区間であった。
 中央アルプスは千畳敷カールと宝剣岳だけかと思っていたが、「アルプス」と名が付くだけあって、周辺の三ノ沢岳や空木岳への主綾線等、スケールの大きい山岳風景だった。どっしりと鎮座する三ノ沢岳の存在感は十分である。特筆すべきは、宝剣岳から極楽平へ向かう途中三ノ沢岳分岐前あたりから望む中岳・木曽前岳の西斜面の展望である。天に突出した岩々が斜面を覆い、遙か先には御嶽山がそびえ、「アルプス」の名に恥じない山岳展望がそこにあった。
 極楽平に達した頃には日が西に傾き、下方には層積雲が雲海を成し、上空には高積雲のひつじ雲が連なり感動的な光景だった。雲を基本的に分類すると10種類に分類されるが、高層雲、高積雲等、「高」が頭につく類の雲は高さ5,000m前後の高さに広がる「中」層雲であり、低気圧や温暖前線から500km離れているところに現れる雲である。中層雲が広がったことから、低気圧が近くに迫っておりおよそ半日から1日後に雨域が西から訪れることを示している。そうすると翌日の朝には早くも天気が崩れることになり、翌日空木岳に到達する前に降られそうである。しかも、肝心のフィルムを既にすべて消費してしまっていた。時間は16:30、今日下山するとすると最終のロープウェイの時間17:00まで30分しかない。留まるか撤退するかの選択を迫られるが、晴天なしフィルムなしの山行に何らの意味が見いだせず千畳敷駅まで駆け下る。
 ロープウェイを降り、しらび平駅に着いた頃には、上空の空と雲が恐ろしいほどの妖艶なピンク色に染まっていた。ロープウェイの最終があと30分遅ければ夕日に染まる中央アルプスの絵を撮ることができたのにと考えると残念でならなかった。

感想)
今回の山行は、山登りとは別に撮影という明確な目的があるため、一般の登山より綿密な計画・下調べと多くの判断を迫られる山行だった。天候に左右され悩ませられた数日だったが、たとえ今天気が悪くとも目的地まで足を運ぶという“努力”と天気という“運”があって初めて優れた山岳写真を撮り得ることができることを、改めて強く認識させられた。また、携帯ラジオを持たず天気図も作成できないが、“雲の種類と天気との関連性”を覚えていった結果、相当程度心強い登山の見方になってくれた。雲・天気を理解することによって少し山が分かったような気がし、その分より山が好きになったと思える。 記:武見

写真:フィルムをデジタル化できないため割愛。















                                                       NET山岳会”HALU”

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